はじめに

これまで、主に潰瘍性大腸炎の治療薬とその選び方について記事を書いてきましたが、クローン病の治療を選ぶときは潰瘍性大腸炎と異なる視点が必要です。

クローン病では症状が強くなくても、Advanced therapyなどの強力な治療を導入することがあります。

この記事では、専門医がクローン病の治療を選ぶときに何を考えているのかを分かりやすく解説します。

結論 クローン病は、「現在の症状」だけでなく「将来の腸を守ること」を考えて治療を選びます。

クローン病の治療で最も大切なのは、将来の腸へのダメージをできるだけ防ぐことです。

腹痛や下痢が改善していても、腸の炎症が続いていると、狭窄や瘻孔、膿瘍などの腸管合併症を引き起こし、しばしば外科的手術が必要になることがあります。

そのため、専門医は現在の症状だけでなく、5年後、10年後を見据えて治療を選択していきます。

「どこに炎症があるか」「腸管合併症がないか」を評価する

クローン病は口から肛門までの消化管のどこにでも炎症が起きる可能性があります。

小腸病変や肛門病変の有無は、治療選択に大きく影響します。

クローン病では、炎症が長期間続くことで、

・腸が狭くなる(狭窄)

・腸と他の臓器が繋がる(瘻孔)

・膿がたまる(膿瘍)

などの腸管合併症が起きることがあります。

このような場合には、内科的治療だけでは十分に改善せず、外科的手術が必要になることがあります。

そのため、内視鏡だけでなく、CTやMRI、小腸造影などの画像検査などを組み合わせて評価します。

「症状が軽い」だけでは安心できない

クローン病では、症状と炎症の程度が一致しないことがしばしばあります(特に小腸病変)。

腹痛や下痢がほとんどなくても、腸では炎症が進行していることがあります。

そのため、血液検査や便検査、内視鏡検査、画像検査などを組み合わせて、病気の活動性を評価します。

将来的な病勢悪化のリスクを考えて治療薬を検討する

クローン病では、

・若年発症

・多発する小腸病変

・深い潰瘍

・肛門病変

・狭窄や瘻孔のリスクが高い

これらの項目が該当する患者さんは、早い段階から生物学的製剤などのAdvanced therapyを導入した方が、長期的な予後が良い可能性があることが分かってきています(トップダウン療法と言います)。

そのため、現在の症状が強くなくても、病状によって早期から治療を強化することがあります。

手術歴も治療選択に影響します

クローン病では、一度手術を受けても再発することがあります。

そのため、術後は再発予防を目的として、生物学的製剤などのAdvanced therapyを導入することがあります。

「手術が終わったから治療も終わり」ではなく、再発を防ぐことも重要な治療です。

患者さんのライフスタイルも大切な判断材料です

クローン病は潰瘍性大腸炎よりも若年で発症する傾向があり、学生や社会人、さまざまなライフイベントを控えた患者さんが多いです。

治療薬を選ぶ際には、

・学校や仕事との両立

・通院できる頻度

・自己注射への抵抗感

・妊娠・出産の希望

なども考慮します。

無理なく続けられることも大切なポイントです。

専門医が大切にしていること

私たちが目指しているのは、「症状が落ち着くこと」だけではありません。

できるだけ腸を傷つけず、

・手術を減らす

・入院を減らす

・普通の生活を送れる時間を長くする

ことを目標にしています。

そのため、症状が軽くても治療を強化することがあります。

よくある質問

Q. クローン病では必ず生物学的製剤が必要ですか?

いいえ。ただし、潰瘍性大腸炎と比較すると、メサラジン(5ASA)製剤の効果が限定的であるため、その分クローン病の治療においては生物学的製剤の果たす役割は大きいです。病気の範囲や重症度、合併症、治療歴など考慮して、生物学的製製剤の使用が適切か判断します。

Q. 手術をしたら病気は治りますか?

手術で炎症がある部分を切除することはできますが、クローン病そのものが完治することはありません。術後の再発予防が大切です。

Q. 症状がないのに検査を受ける必要がありますか?

あります。クローン病の特に小腸病変においては、症状がなくても炎症が残っていることがしばしばあります。小腸に病変があると再燃リスクが高いと言われており、内視鏡検査や画像検査で定期的に評価することが重要です。

まとめ

クローン病の治療では、「現在の症状を抑えること」と同じくらい、「将来の腸を守ること」が重要です。

専門医は、

・病変の部位

・狭窄や瘻孔などの合併症の有無

・炎症の程度

・手術歴

・将来のリスク

・患者さんの生活や希望

など、多くの要素を総合的に考えて治療を選択しています。

治療について疑問や不安があるときには、「なぜこの治療が勧められているのか」を主治医に聞いてみてください。

その理由を理解することは、安心して治療を続けるための第一歩になります。