はじめに
近年、潰瘍性大腸炎の治療薬が次々と登場し、治療の選択肢が大きく広がりました。
メサラジン(5ASA)製剤やステロイド製剤といった治療薬で十分な効果が得られなかった患者さんには、生物学的製剤やJAK阻害薬、S1P受容体調節薬などのAdvanced therapyの導入を検討しますが、このブログを執筆している2026年7月時点で、Advanced therapyとして13種類の治療選択肢があります。
それぞれの治療薬の有効性や安全性を直接比較したデータは限られており、診療指針でも各薬剤を選択する基準に関しての記載はほとんどありません。
IBD専門医は、一人ひとりの病状や生活、将来のことなどを考えながら治療を提案しています。
今回は、実際に私たちがどのようなことを考えながら治療薬を選んでいるのかをご紹介します。
結論 年齢や病状、ライフスタイルなどを総合的に判断し、その患者さんに合った薬を選ぶことが重要です。
潰瘍性大腸炎には、すべての患者さんに有効な治療薬は存在しません。
同じ診断名でも、
・炎症の程度や症状の重さ
・これまでの治療歴
・合併症の有無
・年齢、性別
・ライフスタイル
・患者さんの希望
などによって、最適な治療薬は異なります。
そのため、専門医はそれぞれの要素を総合的に判断して最適と考えられる治療薬を提案しています。
まず考えるのは「炎症の強さや症状の重さ」
最適な治療薬を考える上で最初に確認するのは、現在の炎症の強さと症状の重さです。
Advanced therapyは、中等症から重症の際に導入を検討しますが、中等症は炎症や症状の程度に幅があるので、
「軽症寄りの中等症」、「中等症」、「重症寄りの中等症」に分けて考えます。
患者さんの年齢や体力、併存症にもよりますが、重症寄りの中等症や重症の場合には、入院治療を検討します。
Advanced therapyの各薬剤はそれぞれ有効な治療薬ですが、治療効果が現れるまでの時間に違いがあります。
そのため、治療薬を選択する際は、「目の前の患者さんの治療をどれだけ急ぐか」、といった判断軸が非常に重要です。
あくまで私見ですが、重症度からみたAdvanced therapyの使い分けについて記載します(必ずしも、中等症以下で使用する薬剤は効果発現が遅い、というわけではありません)。
重症の場合は、日単位で病状が進行するため、早期の治療効果が望める治療薬を積極的に選びます。この場合は、TNFα抗体製剤のインフリキシマブ(レミケード™︎)や、JAK阻害薬のトファシチニブ(リンヴォック™︎)が選択肢になります。
重症寄りの中等症でもう少し時間的な余裕がある場合は、TNFα抗体製剤のアダリムマブ(ヒュミラ™︎)やゴリムマブ(シンポニー™︎)、IL-23p19抗体製剤のリサンキズマブ(スキリージ™︎)、グセルクマブ(トレムフィア™︎)、ミリキブマブ(オンボー™︎)、JAK阻害薬のトファシチニブ(ゼルヤンツ™︎)が選択肢になります。
中等症以下で外来で治療が可能な場合には、重症寄りの中等症で挙げた上記薬剤に加えて、α4β7インテグリン阻害薬のベドリズマブ(エンタイビオ™︎)、IL-12/23p40抗体製剤のウステキヌマブ(ステラーラ™︎)やJAK阻害薬のフィルゴチニブ(ジセレカ™︎)、S1P受容体調節薬のオザニモド(ゼポジア™︎)やエトラシモド(ベルスピティ™︎)の導入を検討します。
これまでの治療歴も重要な判断材料
これまでの治療歴も重要な判断材料になります。
Advanced therapyの治療歴があれば、「過去の治療薬がどの程度有効であったのか」についての情報が大切です。
2026年7月時点で、Advanced therapyは13種類の治療薬がありますが、これらは大きく5種類(TNFα抗体製剤、IL-23抗体製剤、α4β7インテグリン抗体製剤、JAK阻害薬、S1P受容体調節薬)の作用機序に分けられます。
潰瘍性大腸炎は経過中にサイトカインプロファイル(炎症が起きている仕組み)が変化することが報告されているため一概には言えませんが、以前のAdvanced therapy(カロテグラストメチル(カログラ™︎)含む)の有効性が分かれば、次の治療薬を選択する上で、参考になります。
この有効性ですが、「一次無効」と「二次無効」に分けて考えます。
・一次無効
治療薬を開始した初期の段階から十分な効果が得られない状態。
・二次無効
治療開始初期は十分な効果があったが、継続しているうちに徐々に効果が薄れていき、症状が再び悪化すること。
以前の治療薬が一次無効であれば、同じ作用機序の薬剤の効果は期待できないため、作用機序の異なるAdvanced therapyへの変更を検討します。
二次無効であれば、以前の治療薬の用量の増量や、投与間隔の短縮、チオプリン製剤の併用、同じ作用機序の薬剤を含む他のAdvanced therapyへの変更を検討します。
安全性に配慮することも必要
これまでは主に、治療薬の有効性の観点で記述してきましたが、安全性に配慮することも必要です。
Advanced therapyは治療薬によりそれぞれ副作用が異なりますが、いずれの薬剤も感染症の副作用に注意が必要な点は共通しています。
α4β7インテグリン抗体製剤であるベドリズマブ(エンタイビオ™︎)は、腸管選択的に効果を発揮するため、Advanced therapyの中でも安全性が高い薬剤です。ほか、IL-23抗体製剤も比較的安全性が高いと言われています。
高齢や併存症のため安全性を重視したい時は、これらの作用機序の治療薬の導入を検討します。
患者さんとの対話が重要
治療薬の有効性や安全性だけでなく、患者さんのライフスタイルや希望を考慮して治療薬を決定します。潰瘍性大腸炎の治療は長期にわたるものであり、継続可能なものでなくてはなりません。
JAK阻害薬とS1P受容体調節薬は、催奇形性のリスクがあるため、妊娠やその可能性のある女性への投与は禁止されています。そのため、現在の妊娠の有無や、今後の挙児希望については必ず確認します。
また、Advanced therapyは薬剤により投与方法(経口、点滴、皮下注射)や投与間隔、投与時間が異なります。
そのため、
・飲み薬を希望しているか
・皮下注射に抵抗はないか
・通院頻度や病院滞在時間に問題はないか
こういった点についても確認を行い、有効性や安全性とのバランスも考慮しながら治療薬を決定していきます。
病気による制限をできるだけ減らし、患者さんが自分らしい生活を送れるようサポートをしていくのが、IBD診療の醍醐味であり、やりがいでもあります。
よくある質問
Q. 一番よく効く薬はありますか?
同じ診断名でも、患者さんごとに治療薬への反応が異なるため、すべての患者さんに有効な薬剤は存在しません。
病状やこれまでの治療歴などを踏まえて、最も有効性が高いと考えられる治療薬を選択します。
Q. 一度選んだ薬は変更できますか?
はい。十分な効果が得られない場合や、副作用がある場合、ライフスタイルに変化があった場合には、別の治療へ変更することがあります。
まとめ
潰瘍性大腸炎のAdvanced therapyは、「その患者さんに最も合った治療薬」を選ぶことが重要です。
専門医は、
・炎症の程度や症状の重さ
・これまでの治療歴
・安全性
・ライフスタイルや患者さんの希望
など多くの要素を総合的に考えて治療を提案しています。
治療選択肢が増えた現在だからこそ、「自分に合った治療薬を主治医と一緒に選ぶこと」が、長く病気と付き合っていく上で何より大切だと考えています。
